Author: Y. Kobashi
Date : 2000/04/13 (modified); 1996/05/07 (created)

小橋康章,「決定を支援する」,東京大学出版会,1988
第1章 「知」の働きとしての道具の使用

1.5 この本について


この本は認知科学の既成の研究パラダイムのもとでの最新の研究成果をまと めたモノグラフではない.それよりも,ひとつひとつは知る人も多いと思わ れるいくつかの要素を,独自の観点から組立てなおし,新しい光の中におく ことを狙ったものである.意思決定の支援を始め人間の活動の支援はみかけ よりはるかに難しい問題を抱えている.こうした問題のいくつかを問題とし て認識し,認知科学的なパラダイムや方法を用いて,いくらかでもそれらを 解決する,その出発点としたいというのが,この本を準備することになった そもそもの動機である.あらかじめ注意しておきたいのは,ここで著者が試 みたのは,どんな種類の意思決定理論であれ,意思決定理論を体系的に述べ ようとしたのではないことである.冒頭に記したエピソードの真の主人公は, 実は親切な店員,すなわち決定の支援者なのである.通常意思決定の理論と 言われているものは,あの話の中で買い手の立場にある意思決定者の行為の 記述や,かれの行為のための規範を提供するものである.しかし,以下に述 べるように,著者の関心は支援という特異な行為にある.その特異性のひと つが,支援という行為は常に何かの支援なのであってそれ自身では存在しえ ないということである.極端にいえば,意思決定はその「何か」の一例にす ぎない.そして意思決定理論もまた,多くの意思決定の支援の道具のひとつ にすぎない.ただ,一例とはいいながら,意思決定の支援は,支援の理論や 実践がもっともよく記録された分野のひとつであり,支援の方法も時として きわめて厳密に定義され,報告されている.そういう意味では,支援の対象 である「何か」がここでは意思決定であるのも,全くの偶然とは言えないわ けである.

このあとの章ではまず,私たちが視野にいれておきたい 意思決定の研究とはどういうものかを,そのアプ ローチのしかたと,対象のレベルによる分類を中心に解説する.ここでのひ とつのテーマは意思決定行為に関しての規範的理論と記述的理論の対比であ る.

第3章 では意思決定の理論とは区別される意思決定の支援の理論をめざして, 支援の正当化の規準を検討する.

第4章 は意思決定の支援の道具であるデシジョン・エイドの実例をいくつかとりあげる.

そして最後の 第5章 では意思決定支援のための行為や道具自体がもたらす 副次効果について述べ,さらに意思決定にとらわれない支援行為一般に視野 を拡張して,新しい問題を提起する.


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