第4章 道路の整備状況等 第1節 道路の整備 第1 法整備と5ヵ年計画  道路整備は、 昭和20年代後半に次の法制上の大改革が行われたことにより進展をみた。 ○ 昭和27年の道路法の全面改正による道路に関する基本法の制定(以降、昭和32年、高速自動車国道法、国土開発幹線自動車道建設法(昭和41年四法統合)の制定) ○ 昭和27年の道路整備特別措置法制定よる有料道路制度の創設(昭和31年新法および日本道路公団法等の制定) ○ 昭和28年の道路整備費の財源等に関する臨時措置法による道路特定財源制度の創設   具体的には、 これに並行して昭和29年を初年度とする第1次道路整備5ヵ年計画が発足し、 さらに昭和33年に5ヵ年計画の根拠法として道路整備緊急措置法が制定され、 以降昭和63年の第10次5ヵ年計画まで引き続いて実施された。   この期は、 第6次5ヵ年計画(昭和45〜49)以降、 第10次までの5ヵ年計画により実施されたが、 いずれも前記(第2章 第2節 経済情勢)の経済計画及び全国総合開発計画に依拠して策定、 実施されたために開発に重点が置かれ、「道路整備の質・量の立ち遅れ」という基本認識のもとで、 時々の経済社会の動向に応じた要請を取り込んだ形で実施され、 逐次拡大を見つつ、その骨格は全国土をカバーする約14,000kmに及ぶ高規格幹線道路網の整備に集約された。 この構想は第4次全国総合開発計画(昭和62年3月30日閣議決定)においても「交流ネットワーク構想」として取り入れられ、 その内容は国土開発幹線自動車道を当初の7,600km から新たに3,920kmを加えて11,520kmとし、 これに関連するものとして、本四連絡道を含む国道の自動車専用道路化部分 2,480kmを加えて14,000kmとした。   道路整備は5ヵ年計画上、一般道路事業、 有料道路事業、 地方単独事業のそれぞれに分けて進められた。一般道路事業及び地方単独事業が若干の道路新設はあるものの現道の改築、 維持、修繕、 災害復旧を内容としているのに比べ、有料道路事業は高速道路、 都市高速道路、 一般有料道路とも新たに設けた自動車専用道路として供用されるということから、道路交通の形態が、いわば高速道交通と一般道交通とに二様に分化されることとなった。 第2 高速道路の整備  高速道路の根幹をなす国土開発幹線自動車道は、 平成2年度末までに東名、名神、 中央、 中国、 九州、 東北等19路線の供用延長が4,869km(当初計画7,600kmの64.1%)に 達し、昭和46年度以降は、平均約200km/年づつ延伸されて着々と高速道路網が整備された。  都市高速道路(首都、阪神、名古屋、福岡・北九州)は、平成2年度末までに供用延長計 465kmとなり、 昭和40年代後半は7km/年、 50 年代は13.3km/年、60年代以降は26.6km/年と逐次整備度が高まった。  このほか、 一般道路のバイパス、 トンネル、 橋、 観光地道路の整備による一般有料道路の整備が行われ、平成2年度末において、 日本道路公団によるものが48路線659.5km、 地方道路公社によるものが125路線1,105.6km、地方公共団体によるものが36路線390.4km整備され、自動車専用道路として道路の利用を受益者が負担するという有料道路制度が定着した。 第3 一般道路の整備   一般道路は、量的には昭和45年〜平成2年の間に国道14,117km、都道府県道7,602km、 市町村道74,366km、計96,086kmの延長により、国道46,935km、都道府県道128,782km、市町村道934,319km、計1,110,0347kmとなったが、 建設省において質的指標として設けている基準との対比では、 平成2年度末における国道・都道府県道の改良率は64.1%、整備率(改良済の幅員5.5m以上、混雑度1.0未満)は、国道54.9%、都道府県道40.8%であり、 市町村道の舗装率は63.0%となっている。   また、 歩道の設置状況については、全道路延長の約10%、 歩道が必要な道路とされている道路延長約26万kmに対しては、 44.3%(国道72%、都道府県道44%、 市町村道37.2%)である。  なお、 都市部の道路交通は、 都市計画とその整備に大きく影響を受ける。平成2年度末における都市計画道路(幹線街路、自動車専用道路、区画街路、 特殊街路)の整備状況は、計画延長63,661kmに対し、44.5%の28,353kmであり、 たとえば整備率70%台の名古屋市と23 %台の滋賀県などにみられるように都道府県、指定市別で整備にバラツキが生じている。 第2節 道路投資の財源   この期における道路投資額は表(道路投資額等対比)のとおり名目上GNPのおおむね2%前半で推移し、 その伸び(昭和46年/平成2年)の状況は GNPの伸び(5.3倍)とほぼ同じ(5倍)であるが自動車(三輪以上)保有台数の伸び(2.8倍)をはるかに上回って投資された。   事業別では、 一般道路事業は4.3倍、地方単独事業は5.3倍に対し、有料道路事業は6.2倍と高く、投資額の構成比の対比(昭和46/平成2年)においても一般道路事業の49% → 42%、地方単独事業の29% →31%に比べて高速道路等の有料道路事業は22% → 27%と高まっており、 各事業に対する傾向がみられる。  したがって、 財源についても、国費の3.6倍、 地方費の5.6倍に比べ、有料道路事業への投資は財投等の資金が6.7倍に増大した。   これらの投資を可能にしたのは、道路整備に関する特別会計制度と、その内容である特定財源及び財投を中心とする借入金であるが、 特別会計の歳入の中心は国費では揮発油税、石油ガス税の道路特定財源及び運用上特定されている自動車重量税であり、地方費では、 譲与税としての軽油取引税、自動車取得税である。   しかし、 道路整備に関する財源については、 その規模、 特定の在り方について道路整備計画の発足以降次第に各般の議論が出され、経年ごとに強まる傾向が見られた。すなわち、@財政面からは道路特定財源の一般財源化による財源硬直化の改善・転用、借入金の償還期限延長措置に対する不安、 A省エネルギー対策面からは石油消費を拡大するのみの道路建設への疑問提示、 B地方行政面からは国と地方の役割分担面からの特定財源比率の見直し要望、 C経済面からは景気との関連への疑問提示、 D 表 道路投資額等対比        │ │昭和46年 │平成2年 │倍 率│備  考 │       │自動車(三輪以上)保有台数(年度末)│ 千台│ 千台│ │ │       │ │ 20,435│ 57,669│ 2.82│ │       │国民総生産(国民経済計算昭和60年基準。│ 億円│ 億円│ │ │       │平成2年は速報) │ 828,603│ 4,375,682│ 5.28│ │       │ │  億円│ 億円│ │GNPの │       │道路投資(最終) │  20,467│ 103,078│ 5.04│昭和46年 2.47%│       │ │ │ │ │平成2年 2.36%│       │ │ │ 億円│ 億円│ │ 構成比% │       │ 内│国費(最終) │ 7,615│ 27,222│ 3.58│昭和46│平成2│       │ │ │ │ │ │ 37.2│ 26.4│       │ │地方費(最終) │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ │平成2年は推計 │ 9,246│ 51,650│ 5.59│ 1.2│ 50.1│       │ 訳│財投等(最終) │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ │ │ 3,606│ 24,206│ 6.72│ 17.6│ 23.5│       │ │ │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ 事 │一般道路事業(最終) │ 10,067│ 43,675│ 4.34│ 49 │ 42 │       │ 業 │有料道路事業 │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ 別│(本四は道路部分のみ) │ 4,408│ 27,399│ 6.22│ 22 │ 27 │       │ │地方単独事業 │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ │(平成2年は推計) │ 5,991│ 32,003│ 5.34│ 29 │ 31 │       │ 特 │ │ 億円│ 億円│ │ 76 │ 74 │       │ 定 │国費(最終) │ 5,763│ 20,215│ 3.50│ (79)│ (93)│       │ 財 │地方費(最終) │ 億円│ 億円│ │ │ │       │ 源│(平成2年は推計) │ 3,530│ 20,325│ 5.76│ 38 │ 39 │       (  )は重量税を含む構成比。  環境面からは道路整備計画自体の見直し意見、E自動車・道路ユーザー及び自動車メーカー団体側からは自動車関係税の大衆課税論、消費税と取得税との二重併課論、昭和49年以降延長継続されている暫定税率の本則税率への復元、道路利用の受益者負担原則と高速道路料金のプール制及び国土の均衡発展名義の地方部道路の開発に対する都市部道路利用者の不満などがそれぞれの機会に出されたが、道路整備の立遅れの主張と地方部の強い道路整備の要望等により、改変されることなくこの財源の枠組みは継続された。 もっともバブル経済の崩壊もあり、 整備の考え方の中にユーザーニーズを取り込む等の変化がもたらされることとなった。 第3節 管理と訴訟  この期には、道路の管理をめぐり、次の訴訟が提起され、司法判断がなされた。 第1 一般管理 ○ 昭和49年11月、大阪高裁は昭和43年の飛騨川バス転落事故について、土石流は予見可能として国に賠償を命じた。 ○ 平成5年6月、東京高裁は、昭和54年の東名、日本坂トンネル事故について、日本道路公団に賠償を命じた。 第2 公害訴訟 ○ 国道43号訴訟   国道43号及び阪神高速道路神戸線沿道住民が昭和51年に神戸地裁に対して、一定基準以上の騒音及び自動車排出ガスの排出差止めと損害賠償を国および阪神高速道路公団に求めた。   昭和61年7月一審判決は、差止め請求は却下。損害賠償の一部について容認。平成4年2月、控訴審判決は、差し止め請求は棄却。認容額を増額。平成7年7月、最高裁は原告、被告双方の上告を棄却。その後第二次提訴があったが和解が成立。 ○ 西淀川訴訟   大阪市西淀川区居住の公害健康被害補償法(公健法)認定患者とその相続人が、昭和53年4月(一次)から平成4年4月(四次)までに大阪地裁に対して環境基準値を超える大気汚染物質の排出差し止めと損害賠償を近隣主要企業10社、国、阪神高速道路公団に求めた。(平成3年3月一審判決(一次)は、差し止め請求は却下。健康被害の因果関係は認めず、国および公団に対する請求は棄却。平成7年7月の一審判決(二次〜四次)は、差し止め請求は棄却または却下、自動車排出ガスと健康被害の因果関係の一部を認める。ただし、工場排煙との複合作用とした。同年8月控訴。平成10年7月に一次から四次までのすべてについて一括和解が成立し、訴訟は終了。 ○ 川崎訴訟   川崎市川崎区、幸区居住の公健法による特定疾病(気管支喘息等)の認定を受けた住民と遺族が、昭和57年3月(一次)から同63年12月(四次)までに横浜地裁川崎支部に対して環境基準を超える排出ガス(SO2とNO2)の排出差し止めと損害賠償を国、首都高速道路公団、企業14社に求めた。   平成6年1月一審判決(一次)は、NO2と健康被害との因果関係を認めず、道路管理者に対する請求は棄却、差し止めについては却下。平成10年8月の一審判決(二次〜四次)は、初めて排出ガス単体と健康被害の因果関係を認める。NO2は影響度あり、SPMはまだ明確ではないが、相加作用ありとして損害賠償請求を容認。差し止めについては、道路の公共性を犠牲にしてまで直ちに健康被害を認定する差し迫った危険性はないとして棄却。平成11年5月に二審で一次から四次までのすべてについて一括和解が成立する。 ○ ほかに、昭和63年12月提訴の尼崎訴訟については、平成12年1月の神戸地裁が差し止めについて一部を認める初の判断を示し、二次訴訟(平成7年)とともに同年12月に和解が成立。平成元年3月提訴の名古屋南部訴訟(一次)、平成2年の二次訴訟についても同13年8月に和解合意となった。 ○ 平成8年には新たに東京地裁に対して現在の大気汚染の原因は自動車排出ガスにあるとして、道路管理者、自動車メーカー、国の各行政庁を不法行為者とする訴訟が提起され、平成14年10月判決は、メーカー責任、排出差し止めは棄却。 第4節 課 題 昭和45年から同57年までの第6次から第9次に至る道路整備5ヵ年計画により投資された額は88兆3,492 億円の多額であるにもかかわらず、 道路整備の水準は前記のとおりであり、なお多くの課題が残された。 それを大別すると、@都市部の交通に係るもの、A交通安全に係るもの、B環境に係るもの、C高速道路の整備に係るもの、D農道等に係るものである。 @の都市部の交通に係るものは、都市の交通機能の向上の制約となっている都市部外環道路・バイパスの設置の遅れ、 都市計画に基づく街路の面的整備の遅れ、 駐車・荷捌きスペース整備の遅れ、 駅周辺等交通結節点における乗換え機能整備の遅れ、歩道と車道の分離の遅れ等都市機能に適合していない道路整備の遅延が主たるものである。  Aの交通安全に係るものは、 @のほかに、 道路の必要幅員、 付加車線、視距の確保等車両に対する構造の改良、自転車道を含む交通安全施設の整備(交差点改良、立体横断施設、中央分離帯、防護柵、 道路照明等の整備)の遅れである。 なお、 渋滞対策とも関連し、 踏切道の立体交差化が望まれている。 Bの環境に係るものは、 生活環境に係るものとして@と同様に車両の集中を分散させるためのバイパス等の設置の遅れ、 渋滞解消につながる駐車スペース整備の不足の解消、 併せて都市計画としての沿道整備の推進、 自然環境に係るものとしては、適切なアセスメントの実施が望まれた。 Cの高速道路の整備に係るものは、交通の実需に見合った道路網の計画の策定と、 整備重点の選択による効率的な整備が望まれ、 ほかに具体的課題としての料金所渋滞の解消策、整備過程における非分離二車線での暫定供用、短区間の部分供用、 未整備の一般道路への連結等に対する対策が要請された。 Dこの期には道路法以外の農道、林道、 港湾道路、 空港公団道路等が建設された。 とくに農道については農村地域の自動車交通に少なくない便宜を供与することになったが、 一般道路とのネットとしての連携はほとんど行われず、 林道については、いわゆるスーパー林道が自然環境を破壊するものとして整備にブレーキがかけられ課題とされた。 以上、 道路整備の全体的課題としては、 重点的、 効率的、 高質化整備が指摘され、 その手法についても、透明性、客観的必要性、 情報の公開が求められ、加えて建設コストの削減が強く要請される等厳しい対応が求められることとなった。 これらは、 財源及び環境の観点から、交通需要に追随する形での道路の供給に対する制約意見として出され、また、都市部街路の整備の遅れがもたらしたことに対する反応として、 緊要度・優先度に従っての重点整備がなされるべきとの要請から出されたものであった。 (データは、 平成3年度の「建設白書」及び「道路行 政(全国道路利用者会議)」による。)